「肉の煮込み」を考える~煮込む意味・煮込む時間・煮込む必要性~
スパイスカレーの「肉の煮込み」は奥が深かった!
スパイスカレーの最後の行程の「肉の煮込み」
・「肉の煮込み」の意味は?
・ベストな「肉の煮込み」時間は?
・そもそも「煮込む」必要性はあるの?
実は、私も深く考えずになんとなくでやっていました。
今回は、「肉の煮込み」について調べてみました。
〇スパイスカレーの「肉の煮込み」の意味とは?
「煮る」と「煮込む」は、調理の仕方は同じですが、目的が違います。
・「煮る」→食品に火を通して、スープの味を食品にしみこませる。
・「煮込む」→食品の成分がスープに溶けだし、さらにそれを食品が吸収するを繰り返し、スープと食品との風味のバランスを最適化する。
スパイスカレーの「肉の煮込み」の目的は、
①肉に火を通すため
②肉にスープの味を浸み込ませるため
③肉とスープのバランスの最適化のため
ということになります。
おでんの練り物をイメージするとわかりやすいように思いました。
〇ベストな「肉の煮込み」時間は?
「肉の煮込み」加減って、難しくないですか?
・「固くなるんじゃないかなぁ」
・「パサパサにならないかなぁ」
こんな心配が付きまといます。
では、固くなったりパサパサになったりする原因は何なのでしょうか?
肉を加熱すると数種類のたんぱく質が順番に変化していきます。
その中で、肉を美味しく加熱するための鍵を握るたんぱく質が2つありました。
①固さの原因 『コラーゲン』
②肉汁を保持してくれる 『アクチン』
この2つのたんぱく質の加熱による変化は以下の通りです。
65℃で①コラーゲンが固まりだす → 肉が固くなりだす
66℃で②アリシンが変化しだす → 肉汁が流れ出しだす(パサパサになる)
75℃で固まった①コラーゲンが柔らかいゼラチンに変化していく → これ以降は柔らかくなり続けるが、肉汁が流出していく。
うーん、これは温度のコントロールがすごく難しそうですねぇ。
これを踏まえて次に、美味しい肉の煮込み方を考えていきます。
〇美味しい「肉の煮込み」方法
肉を煮込むときの火力は、吹きこぼれや焦げ付きを回避し、
肉の収縮をできるだけ抑えるために弱火にします。
煮込み時間と肉の変化の関係は下のようになります。
・短かすぎる → 肉汁は残っているが、固い。
・調度いい → 肉汁ができらず、柔らかい。
・長すぎる → 柔らかいが肉汁が出切って、パサパサ。
「調度いい」を目指すために、鶏肉で煮込みの実験をしてみました。
<食感と味の変化> 約2cm角に切った鶏もも肉を、ふつふつぐらいの弱火で煮込んだ
見た目 | 食感 | 味の浸み具合 | |
10分 | 肉らしい(美味しい) | 浸みていない | |
20分 | 肉らしい(美味しい) | 少し浸みた | |
30分 | パサパサ(美味しくない) | さらに浸みた | |
40分 | 固いホロホロ(まあまあ) | 浸み切った | |
50分 | 少し固いホロホロ(まあまあ) | 浸み切った | |
60分 | まだ固いホロホロ(まあまあ) | 浸み切った | |
120分 | 柔らかいホロホロ(美味しい) | 浸み切った |
(※肉の種類や部位など、条件次第で煮込み時間と肉の変化の関係は変わりますので、あくまで参考程度に考えてください)
この実験から判断すると、「調度いい」煮込み時間は、20分ということになります。
しかし単純に「美味しい」=「調度いい」ではありませんでした。
実は、40分以降のホロホロ食感もまたいい感じなんです。
ただ固さが残っているので、ベストなホロホロは120分でした。
120分煮込めば、味がしっかりと浸み込み、繊維状にホロホロと崩れる食感が楽しめます。
さらに、この実験で変化するのは、肉だけではなく、スープが大きな変化を遂げることに気づきました。
〇肉の煮込みとスープの関係
肉を煮込むと、肉の成分がスープに溶け込んでいきます。
その中に、「ゼラチン」が含まれています。
煮込み時間が長くなると、「ゼラチン」の作用でスープにとろみがついていきます。
下の写真をご覧ください ↓
→
煮込み時間30分の状態と120分の状態の比較写真です。
肉のサイズが、かなり違いますね。
スープもこってり感が増しています。
肉の水分が蒸発し、コラーゲンを含む成分がスープに溶けだしていることがよくわかります。
肉のうま味成分と脂肪分を含み、美味しいスープになっています。
この状態が前述した、
スパイスカレーの「肉の煮込み」の目的
③肉とスープのバランスの最適化
にあたるのだと思います。
〇スパイスカレーの「肉の煮込み」の必要性は?
いろいろ調べて実験した結果、スパイスカレーの「肉の煮込み」は、
1位 煮込まない
2位 120分強(柔らかいホロホロになるまで)
だと思いました。
1位に「煮込まない」を選んだ理由は、
10~20分程度煮込んでも、肉にスープの味はほとんど移らないからです。
それなら、ポークビンダルーや、チキンマサラのように、
もとからある肉の食感とうま味を活かして、
スープに合う味付けをした方が美味しいと思ったからです。
2位に「120分強」を選んだ理由は、
肉の柔らかいホロホロ食感と肉の良さを取り込んだスープが美味しかったからです。
ただ120分は長い。
圧力鍋なら、手早くそれに近い状態は作れるかと思いますが、やはり正味120分煮込んだ美味しさとはだいぶ違うと思います。
管理人なりの答えを出してみましたが、皆さんはどうでしょうか?
<豆知識>
最近話題の低温調理機をご存じでしょうか?
美味しい鶏ハムやローストビーフが簡単に作れる機械です。
低温調理機は、アクチンを維持して、コラーゲンをゼラチンに変える、絶妙の温度を調理時間中ずっとキープしてくれるものです。
あれ?アクチンの変化が66℃で、コラーゲンがゼラチンに変わるのが75℃なので、おかしいと思われるかもしれませんが、実はコラーゲンは時間をかければ多少低温でもゼラチンに変わってくれるんです。
その性質をうまく利用したのが低温調理機なんですね。
欲しいなあ…。
<参考資料>
・水野仁輔ブログ 106「煮込めば煮込むほどカレーはおいしくなるのか?問題」
・公益財団法人 日本食肉消費総合センター「火加減と煮込み方」
・ハウス食品HP『「煮込む」とは?』
・齋藤勝裕『料理の科学』(サイエンスアイ新書)
料理の科学加工・加熱・調味・保存の化学変化【電子書籍】[ 齋藤 勝裕 ] 価格:1,100円 |
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