肉を柔らかくジューシーにする調理法②
前回は、1.肉が硬くパサパサになる原因についてお話ししました。
- 肉が硬くパサパサになる原因は?
- 肉を柔らかくジューシーに保つ方法は?
- これがベストな方法だ!
今回は、2についてです。
2.肉を柔らかくジューシーに保つ方法
加熱しても肉の柔らかさと水分を保つには、
・タンパク質が収縮・凝固しないようにする
・タンパク質と水の結合が解けないようにする
必要があります。
その方法を見つけるために、まずは加熱によって起こる現象の仕組みを見ていきましょう。
常温では、タンパク質はアミノ酸とアミノ酸の間に水分子が保たれた状態で安定しています。ここに80度以上の熱が加わると、タンパク質同士がギュッと密集し、水が搾り出されてしまうという現象が起きます。
つまり、収縮・凝固と水の流出は同時に起きているということがわかります。
では、80度未満で加熱すればいいんじゃないの?と思われるかもしれません。
実はその通りで、それを実際行うのが低温調理です。低温調理とは、タンパク質の変性が起きない温度で、殺菌もできる調理方法なんです。
ただ残念ながら時間がかかります。
今回は、特別な調理器具を使わず短時間でできる方法に絞って考えていきます。
ですので、圧力鍋や長時間の煮込みも省きます。煮込み時間と肉の硬さについては、過去の記事をご覧ください。圧力鍋の仕組みについては、また別の機会でお話ししたいと思います。
さて、ではどうすればこの現象が起きないようにできるのでしょうか?
方法はいろいろあります。
大きく分けると、
①物理的にタンパク質を切断する方法
②酵素や菌でタンパク質を分解する方法
③phを調整してタンパク質同士を引き離す方法
④タンパク質を溶かしてしまう方法
この4つになります。
①物理的にタンパク質を切断する方法
タンパク質が収縮・凝固するのは、タンパク質が繊維状に繋がっている(筋繊維)からです。
その筋繊維を、包丁や肉叩きで切ってしまうというのがこの方法です。
筋繊維にも大きなもの小さなものがあります。
大きな筋繊維は、赤身と脂身の間を通っています。そこに包丁を立てるように刺して切ります。
小さな筋繊維は、肉全体を叩くことで切ることができます。包丁の背や専用の器具で、トントンと軽く叩くといいです。
②酵素や菌でタンパク質を分解する方法
酵素や菌を含む食品に漬け込めば、物理的に切断するよりも、バランスよく、肉全体のタンパク質を切断(分解)することができます。
まず酵素を使う方法を紹介します。
酵素にもいろいろありますが、今回活躍するのが“タンパク質分解酵素”です。その名の通り、タンパク質を分解してくれます。ここでいう分解とは、タンパク質の繋がりを切断するのと同じと考えてもらって大丈夫です。
分解されたタンパク質は、図のように加熱しても収縮したり凝固したりすることはありません。ですので、水分が流れ出ることもありません。
“タンパク質分解酵素”を含む身近な食品といえば、パイナップルやキウイなどが有名ですね。
また、肉自体も“タンパク質分解酵素”を持っているので、ある一定の条件下で長期間保存すると、ゆっくりとですがタンパク質が分解されていきます。
そうやって出来上がった肉を、熟成肉と一般的に呼んでいます。最近よく聞きますよね。でもこの方法は家では難しいですね。
次に菌を使う方法です。
麹菌や乳酸菌は、タンパク質を消化酵素で分解する働きがあります。
“タンパク質分解酵素“の働き同じように、それらの菌を含む食品に肉を漬け込むと、肉を柔らかくしてくれます。塩麹やヨーグルトなどが、その代表的なものです。
③phを調整してタンパク質同士を引き離す方法
これはとても科学的な方法です。
肉のphは7ぐらいで、ほぼ中性です。なので肉のタンパク質は、プラスイオンとマイナスイオンを大体同じぐらいの量ずつ持っています。ですので、このままの状態で加熱するとプラスとマイナスが引き合って、収縮・凝固してしまうわけです。
そこで、ph2〜4程度の酢やお酒などに漬け込み、肉のphを酸性に寄せてやります。するとタンパク質をプラスに電荷させることができます。その状態で加熱しても、タンパク質同士が反発し、収縮・凝固しにくくなります。
逆に重曹水(ph8〜9)などでアルカリ性に寄せると、マイナスに電荷させることができ、同様の効果が得られます。メカニズムはこちら↓
料理ってめっちゃ科学ですね。
④タンパク質を溶かしてしまう方法
最後は、タンパク質を溶かしてしまう方法です。
肉の筋繊維は、水には溶けませんが、食塩水には溶けるという性質があります。
この性質を利用したのがブライン液です。ブライン液は、肉が柔らかくなるような塩分濃度に調節された液です。これに漬け込むことで、タンパク質を溶かすことができます。
適正な塩分濃度は、3%以上5%未満です。
3%未満だと効果が得られにくく、5%以上だと浸透圧の関係で逆に脱水してしまいます。
また、海水の塩分濃度が約3.5%なのを考えると、ブライン液はかなり塩辛い液体です。漬け込みすぎると塩辛くなるので、漬け込む時間の長さや塩以外に砂糖や蜂蜜を入れて調整します。
最後に…
肉を柔らかくする方法が、意外にもたくさんあってとても驚きました。しかも、原始的な方法から科学的な方法まで、とてもバリエーションに富んでいました。『肉を如何にして柔らかくジューシーに加熱するか』という問題は、料理界のこれまでの長い歴史の中でずっと考えられてきたことなんだろうな、と強く感じました。
今回はとても長くなりました。最後まで読んで頂きありがとうございます!
次回は、3.これがベストな方法だ!です。
〈参考資料〉
◯天野エンザイム株式会社 『こんなところにも酵素の働きが!』
◯株式会社ハマダフードシステム『肉とphの関係』
“肉を柔らかくジューシーにする調理法②” に対して2件のコメントがあります。